Article

土川博物館×米果南国展{水庫と米と果実をめぐる台湾最南端までの人文巡礼}

西会津国際芸術村が2015年から続けてきた台湾南部との文芸交流が、ついに土川博物館×米果南国展{水庫と米と果実をめぐる台湾最南端までの人文巡礼}という大型の国際交流展に結実しました。同じく米どころでダムを有する西会津との対話を図ろうと、革命就是請客吃飯(革命とは、台湾料理を作ってごちそうすること)を合言葉に、古都の台南と緑の楽園の台東・屏東の三県に焦点をあて、多数のクリエイターが来日・滞在し、交流しながら展示の制作やワークショップにあたります。

7月15日には17:00よりオープニングセレモニー&台湾料理交流会
7月16日にはトークイベント「迷いつつ歩く。台湾サンポロジー」を13:00-15:30に開催予定です。

 

*追記
展示特設サイトができました!!台湾のみなさんの滞在制作やイベントの様子をご覧ください!
https://www.boot-diversity.com/tuchikawa-museum-beika-nangoku-taiwan

 

【展示紹介】

「土川博物館」は、2022年に開幕した「隆(りゅう)田(でん)chacha文化資産教育園区」の見どころを海外に発信し交流を促すために、台南市文化資産管理処が立ち上げたプロジェクトです。土川博物館の「土」と「川」は、台湾一の農水施設である嘉(か)南(なん)大圳(たいしゅう)の「圳」という字に由来し、「圳」とは台湾華語で農業用水路を意味します。烏山頭(うさんとう)ダムを中核とするこの巨大な水利システムは、1920年に着工され、10年の施工期間を経て完成しました。当時、「東洋一のダム」と讃えられ、世界で3番目の規模を誇る嘉南大圳が整備されたことによって、嘉南平野に水が行き届き、蓬莱(ほうらい)米が大幅に増産されるようになりました。蓬莱仙島とは台湾古来の雅称で、見果てぬ美しい地という意味を持ちます。台湾産の蓬莱米は、戦前、宗主国だった日本の食糧不足を補っていました。

総面積1.7ヘクタールを誇る教育園区は、水利技師の八田與一(はった・よいち、1886– 1942)が工事の総指揮を執った烏山頭ダムの最寄り駅に隣接しています。水庫の工事模様を描いたタピストリーの《蝋描壁掛嘉南大圳工事模様(ろうがきかべかけかなんたいしゅうこうじもよう)》をベースとした、台湾最大規模の没入型シアターが併設されており、嘉南大圳や蓬莱米の歴史についてインタラクティブに学べる教育施設となっています。「土川博物館」とは、不毛の大地と呼ばれた嘉南平野が一大穀倉地帯へと変容した変遷、水利と自然環境との共存、台湾の近代化遺産の価値を問い直し再発見する、移動型ミュージアムです。

「米果南国」では、日本人によって導入された蓬莱米のDNAを受け継ぎながらも、台湾人自ら改良を重ね、独自の発展を遂げた台東(たいとう)県池上(いけがみ)郷の「米」と、トロピカルフルーツのパラダイスで台湾最南端の屏東(へいとう)県潮州(ちょうしゅう)鎮の「果」を展示します。

「米」の展示室では、100種類の台湾米料理写真から構成された、稲が風になびく風景のインスタレーションがダイナミックに立ち現れるほか、池上に生きる農民、料理人、地方有力者などのインタビュー映像を、会津で収集した古いテレビなどを通して再生します。南国台湾での米づくりの苦楽を、日本の東北に住まう人々や訪れる旅人に語りかけます。 「果」の展示室では、屏東で果樹園を営む想いを写真や言葉で伝えるとともに、マンゴー、パイナップル、バナナといった台湾で最もよく食されるトロピカルフルーツ9種をピックアップし、その栽培方法や特色もあわせて紹介しています。3Dプリンターによって絶えず印刷され続ける果物を観察できるほか、「色味」「触感」を実際に手で触って疑似体感できるコーナーも設けられています。また、紙と接着剤で創られた1/1スケールのバナナの木が並び、台湾人作家として初めて日本の官展入選を果たし、台湾近代美術を牽引した彫刻家の黄土水(こう・どすい、1895-1930)の遺作《水牛群像》(別名《南国》)もフィルムとネットによって再現されています。

 

【土川博物館】

指導|台湾 文化部文化資産局
主催|台南市文化資産管理処
実行・キュレーション|朗敘設計
設計|賀賀工作室
協力|農田水利署嘉南管理処、国立台湾大学農芸学科、隆田chacha文化資産教育園区
共催|西会津国際芸術村

 

【米果南国展】

実行|潮州小直、大直設計
感謝|台湾好文化基金会、台東県池上郷文化芸術協会
後援|西会津町
共催|西会津国際芸術村

 

【事業コーディネート・通訳・翻訳】

池田リリィ茜藍(日中翻訳家・台南市文化資産管理処対日本窓口兼顧問)

 

【来日クリエイター(敬称略)】

土川博物館:朗敘設計
・劉仁達(アーティスト、キュレーター)
・薛婉綺(デザイナー)
・呉燦政(声音芸術創作者)

米果南国展:大直設計、潮州小直
・陳冠華 (建築家、前・元智大学アーツ&デザイン学科学部長、同大学アートセンター長)
・呉若怡(建築家)
・楊依豐、李品翰、徐宏毅、鄧志權、連薇婷、徐苡喬、劉家秀、戴郁陵、邱翊庭、呂依璇

 

【トークイベント】

「迷いつつ歩く。台湾サンポロジー」

日時:7月16日13:00-15:30 

場所:西会津国際芸術村

「迷いつつ歩く」。知的な探検ともいえる散歩のそれは、先の読めない、台本もないドラマの楽しさがある。南国情緒への耽溺は、少々遠いからこそ強まるもの。恥も外聞もかなぐり捨てて、歴史の暗部に迷い込むのも恐れず、台湾をありのまま感じたい衝動のなかで、好奇心と食欲のおもむくままに、東北への未来に続く奥の細道を突き進む――。

台湾と会津の文芸交流は、戊辰戦争に敗れ、渡台した会津の先人の足跡から遡ることができます。このトークイベントは、日台交流の苦楽に触れ、台湾の奥深さに出会うためにひらかれた語りの場です。決して一本道とはいえない国際交流の歩みを踏まえながら、地域に根差した精神の前景=風土をも楽しめる、国際派の散歩者(サンポエット)になるための心構えについて学びます。出演は台湾を代表する建築家で、『米果南国展』のアーティスティック・ディレクターの陳冠華、聞き手に台湾までつづく琉球弧のフィールド・リサーチを進めるインディペンデントキュレーターの長谷川新。やわらかく過去を解体して今に捉え直し、台湾を根底で支え生かす眼差しを通じて、西会津、そして福島の未来を見つめます。

 

出演:陳冠華(建築家)

聞き手:長谷川新(インディペンデントキュレーター)

通訳:、池田リリィ茜藍(会議通訳者、日中翻訳家)

ファシリテーター:矢部佳宏(西会津国際芸術村ディレクター)

 

陳冠華(ちん・かんか)

建築家。大直設計代表。台湾・元智大学アーツ&デザイン学科学部長(2017-2023)、同大学アートセンターセンター長(2018-2023)。潮州小直プロジェクト・太魯閣WS・基隆山海WS・桃花WS主宰。著書に『海に面した十字架』、『花東の海辺に住まうこと』、『內壢に分け入って』

 

 

 

 

 

 

 

長谷川新(はせがわ・あらた)

インディペンデントキュレーター。1988年生まれ。京都大学総合人間学部卒業。相談所SNZ、国立民族学博物館共同研究員(2020-23)など。主な企画に「クロニクル、クロニクル!」(2016-17)、「不純物と免疫」(2017-18)、「STAYTUNE/D」(2019年)、「約束の凝集」(2020-21)、反戦展(2022-23)など。

 

――――――――――――――――――――――――――

西会津と台湾の文芸交流、2015‐2023までをふりかえって(敬称略)

西会津のアートシーンが台湾で初めて紹介されたのは、森のはこ舟アートプロジェクト実行委員会の西会津×三島ワーキンググループが企画した「幻のレストラン」に遡る。2015年、台北市立美術館で開催された「食物箴言:思想與食物」展の会期中、招聘作家で日中翻訳家の池田リリィ茜藍が、食の翻訳家の木村正晃が企画したワークショップの成果物の一部を、会津の戦前の蚊帳を使ったパフォーマンス《蚊帳の外》のインスタレーションに起用し、再翻案したのを切っ掛けに、サポーターであった台南を拠点とする文芸関係者の間で、西会津国際芸術村(以下、芸術村)が知られるようになった。

2018年には、日本統治時代に台湾で活躍した会津の文化人・西川満(にしかわ・みつる、1908-1999。初代会津若松市長の孫。台湾文芸界で最も親しまれ知られる会津出身の装幀家・小説家)が取り持つ縁で、国立台湾文学館(台南市)が主催し、福島県立博物館とやないづ町立斎藤清美術館が共催する展覧会で、西川が手がけた美しい蔵書票や数々の稀覯本が初めて凱旋を果たした。以降、民俗学者で当時福島県立博物館館長であった赤坂憲雄や台南市政府、台湾文化センター後押しのもと、西川満の常設コーナーが芸術村で設けられるようになり、台湾の文房具がつまった「福袋」や西川満の新書の贈呈など、台湾側の訪日者の受け入れ先であった西会津と国立台南文学館との文芸交流は、今日も続いている。

同年、元智大学アーツ&デザイン科(桃園県)が主宰する桃花工作營(アートキャンプ)に、学部長で同大学アートセンターセンター長であった陳冠華の計らいにより、芸術村のレジデンス作家で土絵作家の佐藤香や《蚊帳の外》の共同制作者でもあるパフォーミング・アーティストの花崎草など、福島とゆかりのあるクリエイターが招聘されるようになる。

2021年、蔡英文総統も臨席した烏山頭ダム着工百周年の記念式典に、大会側の招待を受け、正式に台湾出展を果たした芸術村は、台南に位置する八田與一記念公園で西会津の魅力を伝えた。2022年2月、台湾当局が福島など5県に対する輸入規制を緩和したのを機に、「コメ」や「果物」という新たな切り口で会津との文芸交流を深化させるべく、台南市文化資産管理処より青少年向けの絵本『1930・台湾烏山頭(うさんとう)~水がめぐる平野の物語~』の日本語版が、西会津中学校の卒業生全員と図書館、芸術村に贈呈された。また常設展に華を添えようと、台南市政府より台南の紹介本やリーフレットなどが贈られ、式典などのイベントにあわせ、特産品の愛文マンゴーが産地直送で届けられた。

2023年1月、芸術村初の台湾講演、ならびに芸術村ディレテクターの矢部佳宏と国立台南芸術大学教授・龔卓軍との対談「ポスト福島の昨日と私たちの明日」が国立台湾文学館で行われ、同年2月には特別トークセッション万物会議「水庫・流域・土の交差――物語の始まりにふれる」(水の国から篇は龔卓軍、土に返る篇は陳冠華)が芸術村主催で開催された。アフターコロナとともに、互いの活動拠点や芸術祭を実際に訪れ、フィールド・リサーチを行うといった対面交流が再始動し、その交流の成果と詳細は、台湾の芸術専門誌『藝術家』(人新世におけるアート篇)で台湾華語によって特集された。同年3月、東日本大震災から12年目を迎え、陳冠華が主宰する潮州小直・大直設計より、屏東県の特産品と同県の潮州鎮をイメージした手摺りのTシャツが、西会津中学校の生徒全員に寄贈された。同年4月、潮州鎮で開催された春の手作り市「春潮集」に、西会津国際芸術村が初出展し、赤べこの絵付けや特別講座などを行った。同年7月-9月、芸術村8年の歩みの結晶としての台湾展を、台南市文化資産管理処と陳冠華チームによって共同開催。2つの展示をひとつとして魅せる「土川博物館×米果南国展」は、台湾の地方政府と民の境界が溶け合い一体となって西会津との交流をはかった国際展である。

(まとめ:池田リリィ茜藍)