【トークイベント】
「迷いつつ歩く。台湾サンポロジー」
日時:7月16日13:00-15:30
場所:西会津国際芸術村
「迷いつつ歩く」。知的な探検ともいえる散歩のそれは、先の読めない、台本もないドラマの楽しさがある。南国情緒への耽溺は、少々遠いからこそ強まるもの。恥も外聞もかなぐり捨てて、歴史の暗部に迷い込むのも恐れず、台湾をありのまま感じたい衝動のなかで、好奇心と食欲のおもむくままに、東北への未来に続く奥の細道を突き進む――。
台湾と会津の文芸交流は、戊辰戦争に敗れ、渡台した会津の先人の足跡から遡ることができます。このトークイベントは、日台交流の苦楽に触れ、台湾の奥深さに出会うためにひらかれた語りの場です。決して一本道とはいえない国際交流の歩みを踏まえながら、地域に根差した精神の前景=風土をも楽しめる、国際派の散歩者(サンポエット)になるための心構えについて学びます。出演は台湾を代表する建築家で、『米果南国展』のアーティスティック・ディレクターの陳冠華、聞き手に台湾までつづく琉球弧のフィールド・リサーチを進めるインディペンデントキュレーターの長谷川新。やわらかく過去を解体して今に捉え直し、台湾を根底で支え生かす眼差しを通じて、西会津、そして福島の未来を見つめます。
出演:陳冠華(建築家)
聞き手:長谷川新(インディペンデントキュレーター)
通訳:、池田リリィ茜藍(会議通訳者、日中翻訳家)
ファシリテーター:矢部佳宏(西会津国際芸術村ディレクター)
陳冠華(ちん・かんか)
建築家。大直設計代表。台湾・元智大学アーツ&デザイン学科学部長(2017-2023)、同大学アートセンターセンター長(2018-2023)。潮州小直プロジェクト・太魯閣WS・基隆山海WS・桃花WS主宰。著書に『海に面した十字架』、『花東の海辺に住まうこと』、『內壢に分け入って』
長谷川新(はせがわ・あらた)
インディペンデントキュレーター。1988年生まれ。京都大学総合人間学部卒業。相談所SNZ、国立民族学博物館共同研究員(2020-23)など。主な企画に「クロニクル、クロニクル!」(2016-17)、「不純物と免疫」(2017-18)、「STAYTUNE/D」(2019年)、「約束の凝集」(2020-21)、反戦展(2022-23)など。
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西会津と台湾の文芸交流、2015‐2023までをふりかえって(敬称略)
西会津のアートシーンが台湾で初めて紹介されたのは、森のはこ舟アートプロジェクト実行委員会の西会津×三島ワーキンググループが企画した「幻のレストラン」に遡る。2015年、台北市立美術館で開催された「食物箴言:思想與食物」展の会期中、招聘作家で日中翻訳家の池田リリィ茜藍が、食の翻訳家の木村正晃が企画したワークショップの成果物の一部を、会津の戦前の蚊帳を使ったパフォーマンス《蚊帳の外》のインスタレーションに起用し、再翻案したのを切っ掛けに、サポーターであった台南を拠点とする文芸関係者の間で、西会津国際芸術村(以下、芸術村)が知られるようになった。
2018年には、日本統治時代に台湾で活躍した会津の文化人・西川満(にしかわ・みつる、1908-1999。初代会津若松市長の孫。台湾文芸界で最も親しまれ知られる会津出身の装幀家・小説家)が取り持つ縁で、国立台湾文学館(台南市)が主催し、福島県立博物館とやないづ町立斎藤清美術館が共催する展覧会で、西川が手がけた美しい蔵書票や数々の稀覯本が初めて凱旋を果たした。以降、民俗学者で当時福島県立博物館館長であった赤坂憲雄や台南市政府、台湾文化センター後押しのもと、西川満の常設コーナーが芸術村で設けられるようになり、台湾の文房具がつまった「福袋」や西川満の新書の贈呈など、台湾側の訪日者の受け入れ先であった西会津と国立台南文学館との文芸交流は、今日も続いている。
同年、元智大学アーツ&デザイン科(桃園県)が主宰する桃花工作營(アートキャンプ)に、学部長で同大学アートセンターセンター長であった陳冠華の計らいにより、芸術村のレジデンス作家で土絵作家の佐藤香や《蚊帳の外》の共同制作者でもあるパフォーミング・アーティストの花崎草など、福島とゆかりのあるクリエイターが招聘されるようになる。
2021年、蔡英文総統も臨席した烏山頭ダム着工百周年の記念式典に、大会側の招待を受け、正式に台湾出展を果たした芸術村は、台南に位置する八田與一記念公園で西会津の魅力を伝えた。2022年2月、台湾当局が福島など5県に対する輸入規制を緩和したのを機に、「コメ」や「果物」という新たな切り口で会津との文芸交流を深化させるべく、台南市文化資産管理処より青少年向けの絵本『1930・台湾烏山頭(うさんとう)~水がめぐる平野の物語~』の日本語版が、西会津中学校の卒業生全員と図書館、芸術村に贈呈された。また常設展に華を添えようと、台南市政府より台南の紹介本やリーフレットなどが贈られ、式典などのイベントにあわせ、特産品の愛文マンゴーが産地直送で届けられた。
2023年1月、芸術村初の台湾講演、ならびに芸術村ディレテクターの矢部佳宏と国立台南芸術大学教授・龔卓軍との対談「ポスト福島の昨日と私たちの明日」が国立台湾文学館で行われ、同年2月には特別トークセッション万物会議「水庫・流域・土の交差――物語の始まりにふれる」(水の国から篇は龔卓軍、土に返る篇は陳冠華)が芸術村主催で開催された。アフターコロナとともに、互いの活動拠点や芸術祭を実際に訪れ、フィールド・リサーチを行うといった対面交流が再始動し、その交流の成果と詳細は、台湾の芸術専門誌『藝術家』(人新世におけるアート篇)で台湾華語によって特集された。同年3月、東日本大震災から12年目を迎え、陳冠華が主宰する潮州小直・大直設計より、屏東県の特産品と同県の潮州鎮をイメージした手摺りのTシャツが、西会津中学校の生徒全員に寄贈された。同年7月-9月、芸術村8年の歩みの結晶としての台湾展を、台南市文化資産管理処と陳冠華チームによって共同開催。2つの展示をひとつとして魅せる「土川博物館×米果南国展」は、台湾の地方政府と民の境界が溶け合い一体となって西会津との交流をはかった国際展である。
(まとめ:池田リリィ茜藍)